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奮闘記

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2006-06-14 研究

_ そういや

本職のことをほとんど書いていないのに気付きました。たまには研究のことも書いてみます。といっても自分にとってのメモ程度にしかなりませんが。

Smooth geometry と Black hole microstates について。相変わらず僕は非BPSにもどれだけこの話が拡張可能なのか興味がある。相対論・宇宙論研究室出身のストリング研究者としては、現実のブラックホールにどれだけ直結しているかが気になるからだ。BPS状態の系は解析し易いにも関わらず smooth geometry のような興味深い現象が現れるので価値があるが、やはり現実の系から攻めるボトムアップのやり方も忘れてはいけない。5次元の系に関してはすでにD1-D5-Pにおいて非BPSでもスムースな解が見つかっているが(そしてそれが不安定であることもわかっているが)4次元の系についてはまだ非BPSなものは知られていないはず。5次元の非BPS系を見つけたグループの1人が、4次元の場合も試したが見つからなかったと言っていたそうだ。5次元と違い、テクニカルに難しいところがあるらしい。

閉弦のタキオン凝縮の話と合わせ、この分野は今盛んに解析されているが、こうした流れを見ているうちに、最近超弦理論に対する考え方が変わってきた。以前は超弦理論が、「既存の理論体系では説明できない実験事実の発見→新しい理論の構築」という順番を踏んでいないことに、科学として不健全なものを感じていたのだが、最近になってようやく AdS/CFT対応あたりからの流れが実験事実に対応するものであると思えるようになってきた。相対論屋の立場から見てしまうと、どうも超弦理論を「使う」という方向に発想が行ってしまい、そうなると一連のゲージ/重力対応に関する研究が「手当たり次第に奇を衒ったような系で対応を探している」ように見えていたのだ。「超弦理論の実態がわからないから奇抜なモデルを次から次へと取り出しているだけ」の人が多いように見えたのだ。無論、そういう単純な動機(例えば「誰もやっていないから」などの)で研究している人も少なくないだろうが、そうでない人は、意識的に「実験」しているのだ。ストリングというやつは、結局のところまだ何だかよくわからない物体で、だからこそ、ある「つつき方」をしてみたら面白い反応が返ってきた、ということになる。様々な系でいろんなことを試してみるというのはいろんなつつき方で反応を試すことに当たるわけで、これは紛れもなく実験なのだ。論文を大量生産するためでもなければ、大先生が言った予想をただ鵜呑みにして追い掛けているわけじゃなかったのだ。おそらく。たぶん。だといいな。

となるとにわかに「それ、面白いな」という観点だけの研究が非常に頼りないものであることに気付かされる。せっかく研究者をやらせて頂いていることだし、たまには悪乗りして「ただ、面白かった」というだけの研究も許してもらいたいが、普段は「だってこれ、重要でしょ」とサラッと言える研究でなければなるまい。「なんか面白いネタないかな」と、有名人が論文を出していないか毎日チェックするのではなく、やはり自分の力で大海を泳いで、地図を作りたい。どこに陸地があるのか/ありそうか、そして何より、自分が今、どこに立っているのか。ストリングの観点で、宇宙論の観点で、相対論の観点で、当然、業界の流れも見失ってはいけないだろう。嘘か本当か知らないが、アメリカインディアンが何かを決めるとき、七代先の子孫のことまで考えて決めるというのをどこかで聞いたことがあるが、宇宙の真理に到達しようとするならば、もっと遥か先まで見据えるくらいの覚悟が必要なのかもしれないな。

研究メモを書いているはずが、また話題がそれてしまった。

タキオン(こちらは開弦のタキオン)を利用したブレーンモデルの話に関しては、プリンストンのT君とともに解析解を探している。もちろん重力込み。背景時空がフラットな場合はほぼわかっているが、重力が絡むと全然違った振舞いをするのはよくあること。以前、厚みを持ったブレーンの安定性解析をしたときもそうだった。宇宙初期におけるブレーンの動的性質を本気で解析するにはこの辺りの研究は不可欠だが、かなり単純化したモデルを持ってしても、inhomogeneousな解析解を出すのは(数値的にすら)難しい。攻め手を変える必要があるかもしれない。


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